私が所属するミッション・ビエホ・カントリー・クラブには、ここ数年でかなりのメジャーリーガーや元メジャーリーガーが所属するようになりました。3年前に元カージナルズ、現エンジェルスの1塁手アルバート・プーホルズが、2年前には、メジャーリーグ現役時代、サイ・ヤング賞4回のグレッグ・マダックス投手が、昨年度はコロラド・ロッキーズの3塁手、2019年にホームラン41本打っているノーラン・アレナドが所属してきました。
アレナドはコロラドの選手ということで、オフシーズンしか会うことがないのですが、プーホルズは地元カリフォルニアに住んでいるということで、シーズン中の休みの日にも一緒にゴルフをしたことがあります。2018年の開幕戦の数日前に、プーホルズが私に電話してきて、チームメイト8人とプレーしたいので、一緒にプレーしてくれないかと連絡ありました。どんなメンバーが来るのかと思って行ってみると、マイク・トラウト、コール・カルフーン、ジャスティン・アップトンという外野レギュラー選手3人に、その年に移籍してきた2塁手のイアン・キンズラー、それにエンジェルスの当時エースだったギャレット・リチャーズと、そうそうたるレギュラーメンバーと開幕直前の日にラウンドすることとなりました。中には年に数回しかゴルフをしないというプレーヤーもいて、いきなりドライバーでフルスイングするそのプレーヤーを見て、故障でもしないかドキドキしながら見ていたのを覚えています。しかもラウンドが終わってからは、練習場へ直行でかなりの数のドライバーを打っていました。
次の日が開幕ということで、日本ではこんなことは考えられないでしょうが、アメリカ・メジャーではこういうことは普通にあります。私も流石に移籍した1年目は、日本人的考え方だったので、ゴルフは休みの日に時々やる程度でしたが、2年目からはシーズン中でも休みの日には、しょっちゅう18ホール回ったり、デーゲームの日には試合後に9ホール回ったりしていました。遠征にもゴルフバッグを飛行機に積んでもらって午前中ゴルフ練習したり、ラウンドしたりしていました。エンジェルス時代には、ブルペンコーチと試合前に一緒にラウンドしたことも何度もありました。そのピッチングコーチいわく、前の晩に深酒するぐらいなら、早起きして1ラウンドしてから球場に入る方がよっぽど健康的で野球にも好影響を与えると持論を語っていました。
私自身は、どちらかというと職業である野球に、集中しすぎる傾向がエンジェルス時代はあったので、気分転換の意味も込めてゴルフをしていました。アメリカに来て、先発から中継ぎの役割に変わったこともあって、身体はそれほど疲れなかったのですが、試合数が多いので、メンタル的に疲れることが多かったので、リフレッシュの意味でゴルフを活用していました。その上、アメリカ・メジャーに移籍後はそれほど英語も喋れませんでしたから、他の選手とのコミュニケーション・ツールとしても大いに活用できました。私がメジャーで9年にも渡ってプレーできたのは、スプリング・トレーニング中はゴルフで、シーズン中は食事とゴルフを他のメジャーリーガーと共にして、常にコミュニケーションを取るようにして、先輩メジャーリーガーから様々なアドバイスを貰い、それを自分のピッチングに生かせていたおかげだと思っています。そしてマリナーズに移籍後は、若い選手が多かったせいもあって、今度は私がゴルフ中、食事中に様々なアドバイスをあげる側になりました。
スプリングトレーニング中にゴルフ初心者の若い選手と、練習後一緒に回ってあげたりもしていましたが、その中にその当時まだ若かったジュエル・ピネロ投手がいました。彼はどこで聞いたのかドライバーのフェース部分にバセリン(顔に塗るクリーム)をたくさん塗ってラウンドするんです。そうするとフライヤーといってボールが揺れながら真っ直ぐ飛んでいく。もちろんそれは公式競技では違反ですが、正しいスイングではないのに真っ直ぐ飛んでいくその様子を見ながら皆で大笑いしたのを覚えています。その時には当時マリナーズのエースだったフレディー・ガルシア投手も一緒にプレーしていて、彼もそれほどゴルフ歴は長くなかったのですが、センス抜群でスコア80そこそこで回ってきたのを覚えています。ガルシアはベネゼエラ出身の選手でしたが、メジャーには、とんでもない運動神経の選手がいるもんだとゴルフを通して知ったものです。また別の機会では、私と同い年のジョン・オレルド1塁手とシーズン中の遠征先での試合前にプレーしましたが、シーズン中は滅多にクラブを握らないという彼は、なんと、ほぼパープレーで回ってきました。首位打者にもなったことがある長身でありながらアベレージヒッターの彼は、バッティング・スイング同様、ゆっくりとしたゴルフスイングながら、ドライバー飛距離は私のものを軽々と超えるのでした。
これらのプレーヤーの様にセンスのある野球選手は、ゴルフが気分転換となるでしょう。一般人ならゴルフは難しすぎて気分転換どころか逆にフラストレーションが溜まるのでしょうが、運動神経抜群の彼らにしてみればゴルフも程よい気分転換スポーツなのです。それとアメリカでは18ホール・スループレーを約3時間半程度で出来ますし、疲れたと思えば9ホールや数ホールで帰ることも何の問題にもならないというゴルフ環境も良い点でしょう。それこそ夜遅くに飲みに行くよりは、散歩がてら朝にゴルフ場に行く方が良いのです。
また私は現役中ゴルフをやっていたおかげで、引退してからもエンジェルス時代のチームメイトだったギャレット・アンダーソン外野手からゴルフの誘いを受けたり、エンジェルス球団のゴルフトーナメントに招待されたりと、MLBと関わり持つ機会が多いです。ゴルフと言えばシギーというイメージを持ってくれている様です。またゴルフは4時間近くも他の人と一緒にいる訳ですから、コミュニケーションがよく取れて仲良くなる機会となります。飲みニケーションも度を超えなければ良いと思いますが、ゴルフでコミュニケーションを取ることは健康的で、もっとも良い手段だと私は感じていますので、中堅の日本人メジャーリーガーにはお勧めです。
長谷川滋利