これまで著書などで学生時代の私のことは述べる機会がありましたが、野球を始める前の私のことはあまり述べていません。メジャーリーガーになるような人は、物心ついた事からスーパーアスリートだったのではと思われている方も多いと思います。しかし、私はそうではありませんでした。子供に野球選手になってほしい、あるいはプロアスリートになって欲しいと願っている親御さんには参考になるのではないでしょうか?
私は4歳で保育園に入園しました。地域によって呼び方は違いますが、私たちの地域では保育園の年少組と呼ばれていました。通常は親が共働きしている家庭などが子供の面倒を見れないことから、私の地域ではこの年齢から保育園に入園させていました。私の両親は共働きではありませんでしたが、早くに私を他の子供と共に生活させたいか何かの理由で入園させてもらったようです。おそらく今ほど入園に厳しい審査などなかったのでしょう。私はその当時の事はほとんど覚えていませんが、三輪車に乗って遊んでいたところ、転倒して頭に傷を負ったことがあるらしいです。親が少し時間経ってから整形外科に連れて行ったら、結構な怪我ですぐに連れてこなかった事に対して、母親が先生に怒られたという話を聞いたことがあります。次男である私は、この話を聞いてもそれほど大事に「かわいい、かわいい」と育てられなかった事が想像できます。
5歳になって保育園の年長組に上がりました。日本では当たり前のように3月で区切って、新学期の始まる4月から次の年の3月までを1学年とします。しかし、アメリカの場合、その区切りは新学期の始まる9月ですが、その学年の一番若い子供である7月生まれや8月生まれの子供は、1年遅らせて次の学年に行かせてもよい(ほとんどの両親がそうする)。元読売ジャイアンツ、メジャーのパイレーツでも活躍した桑田真澄選手は4月1日の生まれで、あと1日遅れていれば私と同い年だったのですが、1年先に上の学年と一緒に学校行く事になりました。そのためにかなり苦労したという話を聞いたことがあります。
さて、私の話に戻しますが、保育園年長組時代の思い出は、運動会でビリッケツになった事です。30M走ぐらいだったと思いますが、そのあたりにフルーツの「なし」が置いてあって、それを取ってまた帰ってくるというものでした。一番早く帰って来るという競争心はなく、一番大きな「なし」を探していたらしいです。かけっこの意味を全く把握していなかった私はダントツで最下位だったらしいのです。それはそれで面白い話でしたが、足のほうも正直それほど早くはなかったです。私の記憶ではあまり運動をした覚えはなかったし、運動神経はないほうだったように記憶しています。唯一褒められた事で覚えているのは、ハサミの使い方が上手だったというもの。しかし、それも保育園の先生はそれぞれの子供に何かいいところを見つけようとする教育法として言われたように今となっては思います。もちろん今となっては、私の周りの人たちは、メジャーリーガーになったことで、保育園からの様々な伝説的な話を作って話しているでしょうが・・・。
6歳になって幼稚園に入る頃になると、父親が大人のソフトボールチームの監督と、兄の所属するソフトボールチームの監督をしていた影響で、それらのチームの球拾いをするようになっていました。そうやってグラウンドに毎日のように行くようになって、外に出て行くことが多くなりました。小学生高学年や、大人のソフトボールの球拾いをしているだけでもアスレチックのレベルは上がっていった事は容易に想像がつきます。ビデオゲームなどはなく家でする事といえばテレビを観ることぐらい。ビデオデッキもなかったから録画したテレビを学校が終わってから観ることもないため、7時からの子供用のテレビが始まるまではする事は家では何もありません。外で兄のソフトボールや、父親のソフトボールに参加することのほうが余程楽しかったのでしょう。
常に外でソフトボールをしているのだから、他の幼稚園児たちよりも徐々に運動神経も発達していきます。同級の子供達と遊ぶと自分が何をやっても一番出来るから楽しくて仕方がない。特に野球をして遊ぶ時はそうでした。そうなってくると、野球のボールを触っていること自体が楽しくなってきたのでした。親のチーム、兄のチームの練習がなくても、自分で壁などにボールを当てて遊ぶようになりました。
ここまで、読んでもらえば私が生まれつきのスーパーアスリートでないことは分かっていただけるでしょう。持って生まれたものではなく、父親や兄から機会を与えられ自然とのめりこんでいくうちに上手になっていったのです。それで皆よりも優れている優越感からもっと球遊びするようになりました。私の場合は自然に起こったことですが、この環境を親が故意に作ってやることはできます。この年齢では押し付けると嫌がるでしょうから、自然体にやらせたいスポーツを見せる。そしてやらせる。それが生活の一部だと5歳、6歳ぐらいの時に植えつける。そのスポーツを始めたら、その子供が一番上手だという環境に入れてあげる。1歳年下とやらしてもいいし、とにかく優越感を与えてあげます。そうするとそのスポーツが好きになります。そしてもっとやろうという様になります。
長谷川滋利