長い間野球をやっていると、試合で何かすごく頭が冴えていて、バッターに対してどこのコースに何を投げればよいか何となく見えるときがありました。また、2003年のオールスターに出場した年は、年間を通じて頭が冴えていたように感じました。その反対にいくら頭を使おうとしてもうまく考えがまとまらず、考えれば考えるほど悪い結果を生んだ試合、あるいはシーズンもありました。今回はその辺りのマウンド上やプレー中のヒラメキについて述べたいと思います。
まず、いくら考えても上手くいかない試合や、シーズンについて述べますが、そのような時は、もちろん技術的に何かがおかしいという事が多いです。その上に「調子が悪いからここに投げたら打たれるかもしれない」とか「何とか打たれないためにはどうすればよいのか」などとネガティブな考えが頭から離れなくなります。「シークレット」という大ベストセラーの自己啓発本にも書いてありますが、それは引き寄せの法則が働いているからです。人間はとっさの時に、「打たれない」というような言葉は「打たれる」に変わってしまいます。「相手バッターが好きなインコースに投げない」とか、「真ん中には投げてはいけない」という考えは、「インコースに投げる」「真ん中に投げる」に変わってしまいます。そういう時は、相手バッターの弱いコースに集中します。つまり「相手の強い箇所を避ける」という考えよりも「相手の弱い箇所を攻める」という考え方が良いのです。
一方、調子の良いときは、もちろん技術的にも良いし、メンタル的にも打たれないというポジティブな思考が働いていますから、とにかくすべてがうまくいきます。もちろん相手バッターを研究するという事に費やす時間は、調子がよくても悪くても変わりません。ただ、調子の悪い時は自分のフォームなどの修正にも時間を費やしている為に、どうしても相手バッターの研究に身が入らない時もあります。そういう意味では調子が悪い時は、フォームチェック、メンタルトレーニング、相手バッターの研究をより長く行うなど、調子が良い時よりも練習時間や勉強の時間が長くなるものです。調子が良い時は、あまり深く考えすぎず、自分の思いのまま自信を持って望めばよい。あまり調子が良い理由などを深く追求しすぎると返って調子を崩す原因となってしまう事もあります。
また調子が良い時というのはテンポも良いです。そういう意味ではテンポを早くするということも、調子が悪い時、まあまあの時というのは良いきっかけとなるかもしれません。それ以外に、私の経験では脳を刺激する毎日の脳トレーニングを行うのもよい事かもしれません。私も任天堂DSなどのゲームを持っていますが、それらに脳のトレーニングのソフトウエアなどがあります。毎日少しずつプレーすれば少しは役に立つかもしれません。私は2003年の調子が良かった年は、本を早く読むためにフォトリーディングや、速読をたまたま行っていました。もちろんそれらは本をたくさん読むために始めた事だったのですが、もしかしたらそれらもマウンド上でのヒラメキの良さに関連していたのかもしれません。
NHKのプロフェッショナルという番組に脳科学者の茂木さんが出演していましたが、彼の言葉はスポーツ選手にとっても興味深いものが多い。彼の著書や出演するテレビを観て勉強するという事もパフォーマンス中の頭のヒラメキを助けるでしょう。
さて、まとめとしては、調子が悪い時、頭が冴えない時は、普段の練習や相手バッターの研究は普段よりも時間をかけて行い、実戦(マウンド上)では、どうせ考えても悪い方向に向かう事が多いのだから、できるだけ考えずにテンポ良く投げる。あるいは、上記したように脳のトレーニングを行うことにより、技術的に悪い点を補う事が出来る可能性も出てきます。一方、調子が良い時、頭が冴えている時も、もちろん普段の練習は怠らず行うが、あまりあれこれ考えてせっかくの調子良さを止めてしまわない事。実戦ではとにかく自分のヒラメキに任せて、自信を持ってどんどん攻めていく事です。少々の失敗やミスでも気にせずプレーするべきでしょう。
スポーツだけに限らず、ビジネスの世界でも頭が冴える時、そうではない時がありますが、今回のこのコラムを参考に改善できる点が見つかるのではないでしょうか?
(本コラムは、2010年に執筆した内容に加筆・修正しています)
長谷川滋利