少年野球のコーチをしていた頃に、ピッチャーが急にストライクが入らなくなってしまう、という場面によく出会いました。そのレベル、つまり年齢によって、あるいはその状況によって原因は違います。ピッチングフォームに問題があったり、時にはメンタル面であったりと様々です。今回はその様な状況で私はどのようにコーチするかを述べたいと思います。これらのコーチング方法は野球だけに限らず、他のスポーツ、ビジネスでも使えると思います。
以前、私が指導していたチームがダブルヘッダーを行いました。私の息子は当時、調子が良いために1試合目に先発しました。しかし、1回いきなり3四球。その後、タイムリーや味方のエラーも絡んで4失点。2回も先頭打者に四球を許し、再びエラーも絡んで3失点。3回は0失点でしたが、そのままこの日は3回7失点で降板しました。普段はコントロールが良い方ですが、時々このように四球を連発します。
この日は審判のストライクゾーンが狭く、その影響で1試合目は10-10のボクシングで言うならガードなしの打ち合いのような試合になってしまいました。次の試合はこちらはエースが投げて四球は1つだけでしたが、相手チームは相変わらず四球連発で9-1と大差で勝ちました。ただ、息子に限っては審判だけが問題ではなかったようです。数週間前のトーナメントでも同じように初回から連続四球を許してすぐ降板しましたが、その時は肩の調子がおかしかった様子でファーストボールのスピードが出なかったのですが、そのスピードを補うようにと余分な力を入れて投げたのがコントロールミスに繋がったようです。今回は先週は試合がなかったために、私が息子のピッチングのレベルを上げるために少しフォームを修正しようとした事から起こったものであったようです。コントロールは良いのですがスピードがあまり出ないために、もう少しスピードが出るように、ピッチングフォームを早くするよう指導しました。基本的にはピッチングフォームを早くスムーズにした方がゆっくりしたフォームよりもスピードは増します。遠投時に走って勢いをつけて投げれば遠くへ投げる事ができる原理と同じです。日本のプロ野球ではコントロール重視で上げた足を一度止めて投げる投手が多いですが、それはスピードよりもコントロールを重視しているためです。
さて、今回はトーナメントではありませんでしたから、息子に対してストライクを投げるように臨時で修正を行うことはさせませんでした。元のフォームに戻せばおそらくストライクを取る事はできたでしょうが、それでは進歩がありません。このフォームでスピードも出て、しかもコントロールよく投げる事ができるように指導しました。
しかし、もしこれがトーナメントであったり、他の選手ですぐに修正が必要な場合は事情が変わってきます。私の息子はいつでも私のオフィスの練習場でコーチできたためにこのような指導ができるのですが、他の選手ではこのようにはいきません。ほとんどのコーチがそうでしょう。日本の高校野球のように毎日練習するのであれば私の息子に指導するようにすればよいのですが、週に1回か2回の練習しかしないようなチームであれば、常に試合で結果が出るようにコーチが最善を尽くさなければならないかもしれません。
そういう時、まず私は技術面を見ます。四球を連発する場合たいがいは投げ急ぎの状態に陥っています。専門的に言えば、投げ急ぎによって体が前に流れて、それと一緒に腕がついてこない。その影響で球が高めに浮くのです。それを修正しようと無理に低めに投げようとすれば、今度は低めにワンバウンドしてしまう。大学レベルぐらいまではコントロールを乱すピッチャーはこんな感じです。これを修正してあげるには、器用な選手であれば、「前に突っ込まず、体重を後ろに残して」と言うだけで修正できますが、そうでない場合は通常よりも足を高く上げさせて前に行く時間を自然と遅らせる方法を私達コーチが考え出してあげます。普段の試合や練習から選手によって、どのような技術的傾向を持っているか注意深く見ておく。この選手は緊張するタイプなのか? 注意力散漫な選手のなのか? などの性格を把握しておく事も大事です。
性格の話が出たのでメンタル面も少し触れておきますが、選手に対して四球を出すな、ストライクを投げろというのは禁句です。私たちもついつい言ってしまう事もありましが、極力言わない方がいいでしょう。そんな事はどんなレベルの選手でも分かっている事ですし、特に四球を出すなという言い方は、とっさの時に「四球を出すな」の「出すな」部分は脳で理解させず、「四球」部分に反応するようになります。四球を出してはいけないというネガティブな部分に集中させるよりも、「キャッチャーミットに集中しろ」とか「バッターとの駆け引きに集中しろ」いう方がよっぽど有効です。
私は現役時代コントロールには自信がありましたが、0-3などの時にバッターが絶対打ってこない、ストライクさえ投げればよい、四球だけはいけないと考えると、ストライクが入らない事がありました。それは普段はバッターとの駆け引きや、インサイド高め、アウトサイド低めと細かい事に集中して投げているのが、ストライクゾーンという大きなボヤっとしたターゲットに投げる事により起きたのです。
野球でもその他のスポーツでも、とにかくポジティブな事に集中する努力をする事。「このバッターのインサイド低めは得意なコースだから投げてはいけない」ではなく、「このバッターはアウトサイドが打てない」という事に集中する方が結果はよいです。ビジネスでも事前に「ここの部分は絶対ミスしてはいけない」という言葉を使うより、ポジティブな部分に集中する方が結果は良くなるでしょう。
私達人間は他の動物と違って言葉という便利なツールを持っています。そのツールを最大限に良い方向に使うようにもっていきたいものです。
(本コラムは、2010年に執筆した内容に加筆・修正しています)
長谷川滋利