米国開催のある講演会で私がスピーチした際の話です。講演の内容は、対象が薬剤師さんが中心だったということで、プロのアスリートとして私がどのようなアプローチで現役時代毎日を過ごしていたかを中心に、毎日のメンタル面の準備や、ゴールの設定の仕方について述べました。この講演の中で「コミュニケーションの取り方」について受講者の中から質問が出ました。今回はそのコミュニケーションについて述べたいと思います。
コミュニケーションを取ることはスポーツに限らず、ビジネスでや普段の生活でも大事なことです。人との上手なコミュニケーションなしに仕事はできませんし、生活もうまくいきません。
私はアメリカ・メジャーリーグに移籍する際にコミュニケーションを最重要課題にあげて英語の勉強をしていました。というのも、私は実力的にメジャーですぐ活躍できるとは思っていなかったからです。日本でのピッチングそのままでメジャーリーガー達を切って取れるほど甘いものではないことは分かっていた。アメリカでコーチや選手からのアドバイスを受け、自分の力を日本の時以上に伸ばそうと考えていたのです。そのためにコミュニケーションは欠かせないものだったのです。
球場ではチームメイト、コーチと話すことはもちろんですが、遠征となると球場以外でもできるだけ他の選手と一緒に行動するようにしました。最初は4、5人で一緒に外出することが多かったのですが、それだとアメリカ人同士で会話する為に、私が理解しようがしまいが、どんどん会話が進んでいってしまいます。それに気づいた私はできるだけ少人数で、あるいは2人で食事に行きだしました。それも毎日いろいろな選手と。2人で行くと相手は私しか話す相手がいませんから、何とかして私に理解してもらおうと簡単な英語を話してくれます。もちろん、日本の時から続けていた英会話の勉強は続けていましたが、それでも1年目は相手に早く喋られるとほとんど理解できませんでした。
「Say again?」 (もう一回言って)
「Another words?」(他の言葉で言って)
は私の口癖になっていました。正直、付き合ってくれるチームメイトも嫌になっていたかもしれません。そこは年俸もそれほど貰っていない頃でしたが、勉強代だと思って食事をご馳走したり、自分がピエロ役になって皆を笑わしたりして、何とか付き合ってくれるように努力していました。
その様な努力も実ってエンジェルス時代はたくさんのBuddy(友達)ができました。それらの友達は、今でも久しぶりに会っても本当にいつも会っている友達のように話すことができます。そして、その当時何より、私が知りたかったアメリカ・メジャーリーグベースボールの知識を得るのに、あるいはメジャーで生き残っていく為の手段を得るのに大いに役に立ちました。
コミュニケーションのスキルは日本の時より上がったかもしれません。もちろん今でも日本語の方が英語よりも得意ですが、人とのコミュニケーションでは英語の方がうまくいっているのかもしれないです。というのは、私の英語は当時タドタドしかったのです。そのために口数は日本語の時に比べて少なかったです。どちらかというと聞き役になってしまいます。日本語では話し役になってしまうのです。
人間には耳が二つあり、口は1つですから、聞く割合2に対して、喋る割合1が良いのです。それが英語では喋りが達者ではないために自然と実践できていたのです。どうりでエンジェルス時代の4年目、5年目にShiggyはナイスガイだと言われるはずです。自然と聞き役になっていたからです。
これを日本語でも実践できるようになれば、私も本当のグッド・コミュニケーターになれるのでしょう。もちろん喋らなければならない場面では喋りますが、普段は、話す・聞くの割合は1対2であるのがベストでしょう。これが私のコミュニケーションをとる際の課題です。
(本コラムは、2010年に執筆した内容に加筆・修正しています)
長谷川滋利