人は周りの環境が変わったり、自分自身で環境を変える事をあまり好みません。私がプロ野球選手時代にメジャーリーグ挑戦をしようとした時、「やめた方がいい」とアドバイスをくれた人たちはその類の人たちです。確かに私も普段は家にいることが好きで、あちこち飛び回って環境を変える事は好きな方ではありません。しかし、ここぞという人生の決断を迫られる時は大きな変化を恐れません。
南アメリカの原住民の話ですが、その原住民はその土地に何世代にも渡って住んでいます。その原住民たちの多くは、昔から原因不明の病気で病死します。科学の発達で、その原住民の住居の粘土でできた壁に住み着く害虫が原因だという事が分かりました。原因が解明されたのですから、害虫がいないところへ移住する。あるいは違う原料を使って家を建て直す。殺虫剤を使って害虫を殺す。などの対処の仕方があるのですが、その原住民は昔からの住居法を変えず、殺虫剤なども使おうとせず、早死にすることを未だに選んでいるらしいです。
私達先進国に住む者が見れば、これは何ともおかしな話ですが、その人たちは変化を恐れているのです。良い言い方をすれば今後もすべての伝統を守ろうとしているのかもしれないです。確かに、これらの原住民の住む地域や、日本のように長い歴史のある国は、伝統を守っていくために変化してはならない部分もあるかもしれません。しかし、そうではなくただ怠惰なために変化を好まないということを私たちは避けたいです。
多くの人が、自分自身の成長や発展の機にたって、無意識に同じような態度をとっています。将来のためには大幅な変革が必要だということを理解しながら、人々は生活を変える事を歓迎しません。多くの障害を乗り越え、積極的に自己変革を行うことによって、人は成長します。それを知りつつ、自分の目の前に起こっている出来事を自己変革のチャンスととらえ、取り組んでいこうとする人は少ないです。そして、平凡で何の波乱もない人生をよしとする後ろ向きの人生観をもったり、成功した人の境遇をねたんだりしながら、哀れな人生を送るのです。
私が日本のプロ野球に入ったのはある程度自然の流れでした。私の母親は、それでも「プロの世界には入らないほうがよい」というようなことも言っていました。普通に社会人として生きていくべきだという意見です。それもそのはず、私の周りには加古川市内にも、母親が育った高砂市内にもその当時プロ野球選手は存在しなかったのです。次にメジャーリーグに挑戦しようとした時は、母親だけでなく、ほとんどの私の周りの人々は反対しました。私がメジャー挑戦の話を周りに始めたのは、現在発売中のスポーツ雑誌「Number」にも寄稿していますが、野茂投手が挑戦する前でしたから、誰も日本人がメジャー挑戦するところを見たことがなかったからです。
野球選手という特殊な職業の中でも、トレードというチームが変わる環境の変化を受け入れがたい選手たちも大勢います。それは日米同じです。またフリーエージェントを取得してもチームを変わりたくないという選手はいます。そういう時は、複数年契約と契約金の金額の合計と、環境の変化という快適ではない状況を天秤にかけます。そういう気持ちで移籍したり、留まったりする選手は翌年それほど素晴らしい結果を残さないものです。変化を恐れず、フリーエージェントを良い機会ととらえて、自分を試す絶好機だと考える選手が活躍するのです。
一般社会でも同じです。終身雇用制がなくなってきた現在を残念がる人もいますが、私はそれらをチャンスがたくさん転がっている社会になってきたと考えます。そういう前向きな気持ちで生きていく人は、レイオフされる確率も低くなるし、仮に転職しても成功する確率は高いでしょう。とにかく新しいことが好きだ、好奇心を持って生きていく、という変化を恐れない生き方をしていく人がどの時代でも成功する人だと思います。
(本コラムは、2011年に執筆した内容に加筆・修正しています)
長谷川滋利