監督・コーチの選手への信頼が選手を動かす

選手の起用法で、監督あるいはコーチがシーズンを通して、どんどん選手を入れ替える方がいいのでしょうか? それとも、ある程度出場する選手を固定して使い、打順などもあまり入れ替えることなく固定していく方がいいのでしょうか?

これはもちろん状況にもよるでしょう。野球の場合、ほとんどがリーグ戦やトーナメント形式で戦い、その前には練習試合などを行います。私の考えとしては、その練習試合などで選手の実力、適正を見定めて、シーズン中、トーナメント中は、ある程度プレーする選手、打順などを固定する方がいいと思います。

以前見ていた私の息子の高校のチームは、ほんの数人は打順、守備位置などを固定していますが、それ以外のほとんどの選手が打順、守備位置がころころ変わります。ある人に言わせれば、選手間の競争意識を持たせるためにいいとのことですが、私はそうは思いません。守備位置に関しては論外で、練習や練習試合などであまり守ったことのない守備位置を守らせることは、チームのためにも本人のためにもよくありません。そうするのなら、シーズン中ではなく、その前の準備期間の練習試合の間に様々な守備位置を守らせるべきでしょう。シーズン中に守備位置変更をする予定が無くても、どの選手が怪我をするかも分からないので、ある程度は守備変更しても良いように練習試合では違う守備位置もプレーさせるべきです。

それが、以前の息子の高校では、怪我人が出た訳でもなかったのに、息子はシーズンが始まってから守ったこともないサードやライトを守りました。(もともと息子は一塁手と投手なのですが・・・)確かにそれは当時の息子が思いのほか打撃好調で、どこかで起用したいというコーチの考えから起こったことでしょうが、それでもシーズン前に、皆にある程度違う守備位置を練習させておく必要はあったでしょう。

これはプロ野球での話ですが、私はオリックス時代に仰木監督の元でプレーしたことがありました。皆さんご存知のように、彼は仰木マジックで有名で、毎日打順が変わりました。それで勝ってしまったので有名になりましたが、選手たちは大変でした。私の近所に住んでいた藤井選手は、ある日3本もヒットを打ったのに、次の日はベンチということがありました。せっかく調子が出てきたのに、次の日はプレーできない。球場には一緒に車に乗っていくこともあったので、そういう時にはそのむずかしさを語ってくれました。

その話の中で一番私が感じたのは、選手と監督との信頼関係でした。ヒット3本打って「やっと調子が上がってきた。明日からますます調子に乗って頑張っていくぞ」という気持ちの時に、試合に出ることができない。これがベンチプレーヤーなら仕方がないことですが、藤井選手はその当時バリバリのレギュラーでした。言葉には出しませんでしたが、私が見ていて、藤井選手の監督への信頼度はゼロでしたし、私から見て、監督が藤井選手対する信頼感を示していたようには見えませんでした。

一方で常勝時代の西武ライオンズなどは、シーズンを通して1番から9番までほとんど打順が変わりませんでした。

1番・辻

2番・平野

3番・秋山

4番・清原

5番・デストラーデ

6番・石毛

7番 右投手、左投手によってここだけは入れ替わった

8番・伊東

9番・田辺

あまりに打線が変わらなかったので、30年近く経った今でもまだ打順を覚えています。この当時は森監督でしたが、選手に対する信頼度がうかがえます。清原選手などは時々、相手投手からインサイドばかりを攻められて(私もよく攻めました)、スランプに陥ったりしていましたが、それでも不動の4番バッターでした。選手それぞれが自分の役割を、1シーズンを通して全うできるので、戦いやすかったであろうことは簡単に想像できます。

もちろんアマチュア野球では選手の実力も安定していませんから、これほど固定はできませんが、監督・コーチは、ある程度は我慢が必要でしょう。練習試合は、日米を問わずシーズン前やトーナメント前に十分に行われますから、その結果を元に打順や守備位置を決めるというようにするべきです。シーズンに入って、1試合だめだったらスタメンを外す。あるいは打順を下げるということをやっていては、選手のモチベーションも、選手の監督・コーチに対する信頼感も生まれません。

プロのレベルでも、アマチュアのレベルでもあまりに実力差があるとき以外は、試合では精神的なものメンタルの影響が大きいと私は考えます。1試合打てなくても、監督・コーチが「大丈夫だ。お前はできる。信頼しているぞ」と声をかけてやれば、選手は力を発揮するものです。この辺のことは、私が始めたオンラインサロン「長谷川滋利のメンタルトレーニング」で毎回述べています。

私が日本のプロ野球に入った時は、ルーキー時代に開幕から4連敗しました。その時に、土井監督は「1つ勝ったら、どんどん勝てる」と言ってくれました。確かに内容は良かったですが、その根拠はどこにもなかったです。しかし、監督の期待通り、その言葉通り、1勝した後はトントン拍子に勝ち、シーズンが終わってみたら12勝9敗で新人賞を獲得してしまいました。あの時に、「チャンスはそうないぞ」と先発を1度外されてしまっていたなら、新人賞はもらえていなかったでしょう。

選手同士を競争させて力を伸ばすという方法もあるにはありますが、それはシーズン前の練習や練習試合などでするべきです。シーズンやトーナメントになれば、監督、コーチの選手への信頼感が、選手を動かすと私は確信しています。

(本コラムは、過去に執筆した内容に加筆・修正しています)

長谷川滋利

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