「アメリカは個人主義」の嘘

日本人は、アメリカは個人主義だと思っている方が多いと思います。実は私も日本に住んでいた頃はそう思っていました。メジャーリーグにあこがれていた頃、つまり日本のプロ野球でプレーしていた頃には、「アメリカだったらもっと自主性を重んじて、練習も自分に任せてくれるのになあ」などと文句を言いながらランニングをしていた事を思い出します。ある部分ではそれは正しかったし、またある部分ではそれは正しくなかったです。今回はアメリカはすべてにおいて個人主義というわけではないことについて述べましょう。

アメリカ人の団結力を感じた1番の出来事がセプテンバー11の時です。アメリカという国は、何かあったときに一致団結する力、まとまる力がすごい。事件後のニューヨークの消防、警察の救命活動はもちろんだが、市民や企業などのボランティア活動などもすごい。困った時に励ましあったり、助け合ったりする行為が自然に身についています。私は神戸の震災も経験しているからよく分かりますが、アメリカの方が自ら何とかしなければならないという意志が強かったように思います。

アメリカは、もともと違う人種同士の集まりなので、基本的にバラバラな国です。しかし、ここぞという時には団結します。それはどこから来ているかというとやはり教育だと思います。私の息子はアメリカで育ちましたが、息子が私に学校で覚えてきた事を最初に話したのが、アメリカに対する忠誠心を誓う言葉でした。それらの言葉を毎朝、挨拶のように唱えます。また、野球の試合やその他のスポーツ試合、あるいは大きなイベントから小さなイベントに至るまで、それらの前には必ずアメリカ国歌斉唱が行われます。セプテンバー11後には、メジャーリーグでは7回の7thイニングストレッチの前にも必ず「God Bless America」斉唱されるようになりました。つまり、これはアメリカ国民に対して、アメリカへの忠誠を誓う儀式を知らず知らずのうちに課しているのです。もともと、アメリカで生まれていない私たちもアメリカ人であるという事を意識するようになります。

一方の日本では、国旗を掲げることに対する反対の声が上がったり、国歌を斉唱することも良しとしないような風潮がありました。これでは国民が国のために、あるいは他の日本人のために何とかしようという思いは薄れるのも仕方がありません。戦争でたくさんの日本人の命を奪われ、反戦に対する気持ちと日本国旗や国歌が重なるのも分からないではないのですが、それらを拒否するあまりに、日本人同士が助け合ったり日本国を大事に思う気持ちまでもが薄れているように思えてなりません。

アメリカはこのような教育や普段からの国に対する思いから、本当の危機、テロや災害時にはものすごい求心力でまとまってきます。自分たちの生活を脅かす敵に対しては直ちに団結できる。そういう国なのです。

野球でもこのことは言えます。ふだんは同じチームでもバラバラに行動しているのですが、大事な試合前や、連敗したあとなどは、選手が指揮をとってミーティングを開きます。日本のように監督がみんなを集めるのではなく、自分たちで何とかしようとします。そういう意味ではチームへの忠誠心というものが強いと感じました。またメジャーリーグでは、打者にビーンボールが投げられたりすると、ベンチからチームメイト全員が飛び出してきて、大乱闘になります。これは自軍の選手に何かあったら、チームをあげて戦うという意思表示でもあるのです。進んで乱闘に参加しない選手はチームメイトとして認めてもらえません。確かにメジャーリーグではトレードやフリーエージェントが盛んですから、自分の元チームメイトが相手チームにいたりして乱闘するにも難しいところはあります。元チームメイトとの殴り合いはないにしても、自軍の選手を守る意味での言い合いぐらいにはなるものです。それはチームが1番大事ということで、けじめをしっかりとつけているからです。

アメリカというと個人主義で「俺が、俺が」の個人プレー放任主義野球のイメージがあるかもしれません。しかし、意外にメジャーの方がチーム最優先で、選手の側もチーム単位で常に動いているという意識が強いようです。アメリカというのは、野球だけに限らず、範囲分けがきっちりしているというか、ある集団への帰属意識というのが強い国柄です。

先ほども述べた試合前に起立して国歌を斉唱するのが、いいとか悪いとかの次元ではなく、当たり前のことなのです。星条旗も、単なる国旗というよりも一致団結するよりどころのようなものです。もともと、共通の意識やものを持たない国民ですから、ひとつにまとまるためには、目に見えるわかりやすいシンボルが必要になる。それが星条旗なのです。

日本は単一民族の国(諸説ありますが)ですが、国としての意識がひとつになっていないように思えることが散見しますし、かといってアメリカのような1つにまとまるために星条旗のようなものもありません。私はあまり中国のことは知りませんが、その中国も主義主張の下に日本よりは意識を1つにして団結力を持ってきていると思います。日本にも何かまとめるためにものが必要ではないでしょうか? 政治主導でも国民主導でもどちらでもよいですから、これらを変えていかなければならない。そうでなければ、アメリカにはもちろん、中国にもそしてそれ以外の近隣諸国にも置いていかれることになってしまうかもしれません。

(本コラムは、2011年に執筆した内容に加筆・修正しています)

長谷川滋利