これまで私はコーチングをする際に、ピッチャーのスピードを上げることにあまり時間を割いてきませんでした。それは現役時代からピッチャーは、スピードよりもコントロールの方が大事だということを自負していたからです。
しかし、私自身がメジャーにきてから5キロ以上スピードが上がったこと、また、最近のメジャーのピッチャーは90マイルから95マイル出るのが当たり前になってきたことを考えると、無視することはできなくなってきました。また、それはプロの世界だけに限らず、アマチュアの高校生あたりでも言えるようになってきています。高校から大学に野球で入学するにしても、ピッチャーとしては85マイル(136キロ)から90マイル(144キロ)出なければ、トップカレッジからは見向きもされません。それはスカウトやコーチの見る目がないから仕方がないと思っていましたが、必ずしもそうとも言えないようです。そのようなコーチやスカウトの不平不満を言う前に、私がアドバイスをする機会があれば、85マイルぐらい投げることができるように指導出来ないか? そう考えて研究しています。
ピッチャーのスピードの研究は、私自身、長い間自然に体に身に付いてきたことを、再度頭で考えるいい機会となっています。
まず、ピッチャーは腕で投げるのは当たり前の話ですが、スピードを上げるには腕のことをあまり考えてはいけません。もちろん腕の振りが早ければ、それに比例して球のスピードも上がるのですが、その肝心の腕の振りを早くする方法を誰も教えてくれません。腕の振りを早くするにはシャドウーピッチングなどをするのも1つの方法ですが、実際にはどうすればいいかは発見されていません。ある意味持って生まれた能力が左右する。だから腕の振りを早くするという行為を今は忘れていただきたいと思います。
速い球を投げるには、やはり速い球を投げるピッチャーのモーションを見るのがいいです。95マイル以上投げるピッチャーは、大体歩幅が広いピッチャーが多く、その大きな歩幅を出すためには、前にジャンプするように力を発揮していなければなりません。しかも、右足の軸足は蹴ることができるようにマウンドにすり足気味にしなければなりません。それも足先ではなく、内側をすりながら前に行くのがよいのです。
その上に体の捻転をうまく使うことができれば、ゴムを引っ張って離すような原理を使うこともでき、より速い球が投げることができます。それらの要素をうまく組み合わせれば、もともと腕の振りが速くないピッチャーでも、85マイルから90マイルは出るようになると私は信じています。
こうしてスピードの出るピッチャーの研究をしていくと、これまで常識だと思っていた様々なピッチング理論の嘘を発見することができます。例えば、前足の膝を曲げてフィニッシュし、投げる瞬間にその膝を伸ばして体重移動をするというやり方は、速球を投げるピッチャーは誰もしていません。真実は前足の膝は突っ張ったままで前に行く力を抑える役割をしなければなりません。また、前足のつま先はまっすぐにキャッチャーの方に出すよりも、ややインサイド気味に出すのがいいという常識(特に日本は言われている)も、当てはまりません。左足が地面につくまではその足先、膝、そして上体はもちろん開いてはいけないが、地面につく瞬間につま先、膝、上体はキャッチャーの方に向かなければならないのです。その開く瞬間に力を爆発させるようにして、速い球を投げる。そのようにして速い球を投げるピッチャーは体を使っています。
とにかく、これまでの常識(根拠のない常識)に縛られていては新しい研究は進みません。ここ数年速い球を投げ出しているMLBのピッチャー、大学のピッチャーなどを研究してより現代に合ったピッチング理論を構築していきたいと思います。
(本コラムは、過去に執筆した内容に加筆・修正しています)
長谷川滋利
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